人件費は企業の経営コストの大部分を占める重要な指標です。
経営者や経営担当者の中には、どのように分析し経営に活かして行くか迷われている方も多いのではないでしょうか。
今回は、人件費を分析する上での基礎となる人件費率・労働分配率について計算方法をご説明します。また、後半にはその改善方法も記載しているので、参考にして下さい。
人件費率と労働分配率は人件費を見直す上で重要な指標
人件費率(売上高人件費率)は企業における人件費の負担割合を示す
人件費率は、売上高に対する人件費の割合を指します。
適切な比率は業界や規模、企業のフェーズによって異なります。分析をする際には、単価と人数の両方を見ることが重要です。
単価は業界の水準と比べながら適切な数値を設定する必要があります。人数については随時業務プロセスの見直しを図りながら、適切な水準にしていくと良いでしょう。
詳しくはこちらをご覧ください。
労働分配率は企業の利益(付加価値)から見た人件費の割合を示す
労働分配率の計算式と計算方法をわかりやすく解説
計算式は次のとおりです。
労働分配率=人件費÷付加価値×100(%) |
人件費は、給与や賞与に役員報酬・法定福利費・福利厚生費・退職金等を足したものです。
会計システムや決算書類を見て、抜けや漏れなく足しましょう。
付加価値の金額は、経常利益に人件費や賃借料などを足したものです。
労働分配率は「人件費が現状適切か」を判断する際に有用
労働分配率は、付加価値に占める人件費の割合を導き出すことができます。
人件費が現状適切かを判断する際に活用できるでしょう。
人件費の中には給与や賞与だけでなく、役員報酬や退職金も含まれます。高いと判断した場合は、人件費の中でもどの費用を削減するか検討していく必要があるでしょう。
また労働分配率は売上ではなく付加価値で比較をしているため、生み出される付加価値に占める人件費の効率を調べることができます。
人件費率と労働分配率の違い
人件費率と労働分配率では、分母となる数字が異なります。
人件費率では売上を比較対象として使っています。
売上はわかりやすい数字で計算も簡単というメリットがあります。ほかの企業との比較もしやすいでしょう。
付加価値とは企業による事業の結果生み出された価値のことを示します。労働分配率を使うことで、労働がもたらす価値を正確に計算できます。
人件費率と労働分配率を評価するには~それぞれの目安を解説
人件費率を評価する目安は2通り
次の2つの方法があります。
1つ目は、同業種の平均値と比較する方法です。
どこにコストがかかるかというところは業界によって大きく異なるため、同業者で比べるのはひとつ有効な方法です。ただし、企業の規模によってもあるべき数値は異なるため、あくまでもひとつの参考として見る必要があります。
2つ目は、人件費率+原価率がどの程度か評価する方法です。
この2つを足せばコスト全体を把握できるため、全体の中に占めるそれぞれのコストの割合を掴むことができます。
詳しくはこちらをご参照ください。
労働分配率は企業規模別・業種別の平均値を目安に評価する
労働分配率は、企業規模や業界別の平均値を目安にするとよいでしょう。平均値と比較することで、自社が傾向としてどのような位置にいるのか掴めます。
ただし、実際どの数字が適切かというところは企業によって異なるため、 あくまでも参考として参照しましょう。
企業規模別労働分配率の平均値(財務省「法人統計調査年報」より)
財務省の「法人統計調査年報」では次のとおりです。
この表から規模の小さな企業ほど労働分配率が高くなっていることがわかります。 規模によって比率が大きく異なるため、分析の際にはどれぐらいの規模なのかも加味する必要があるでしょう。
出典:https://www5.cao.go.jp/keizai2/keizai-syakai/k-s-kouzou/shiryou/1th/shiryo4-3.pdf
業種別労働分配率の平均値(財務省「法人統計調査年報」より)
財務省の「法人統計調査年報」を見ると、教育や社会福祉といった人がメインとなる産業では労働分配率が高いことがわかります。一方で不動産・賃貸・技術サービス等では比率が小さくなっています。
人がメインとなる産業では人件費を抑える工夫をする一方で、必要な人材投資は積極的に行うことが重要です。
業界によって水準が大きく異なるため、分析の際には規模だけでなく業界も意識するようにしましょう。
人件費率・労働分配率は高すぎても低すぎても良くない
人件費率や労働分配率の比率が高い場合は、コストのかけすぎが懸念されます。放置すると業績悪化に繋がってしまう可能性があるため注意が必要です。
比率が高い場合は、残業を減らす工夫をしたりシステムの導入で自動化する等、工夫をしていきましょう。
一方で、低すぎるのも問題です。比率が低すぎる状態は給与や賞与を適切に支払えていない可能性があります。 人への投資が足りていないとモチベーションが低下したり離職に繋がってしまったりするリスクが考えられます。
例を用いて人件費率と労働分配率を求め、評価してみよう
次のような例を考えてみます。
スーパーX。
年間売上1,000万円、売上総利益が250万円
付加価値 200万円
(経常利益170万円、賃借料20万円、減価償却10万円、金融費用0円、租税公課0円)
常勤社員が2人、パートが1人で人件費は年間100万円
この場合は、人件費率は人件費100万円を売上高250万円で割り戻して40%となります。
一方で、労働分配率は人件費100万円を付加価値200万円で割り戻して50%となります。
小規模の企業では労働分配率は78%程度が平均です。また小売業の労働分配率は平均60%です。今回の場合は、どちらと比較しても人件費の水準が低いと言えるでしょう。
人件費が低い状態は、従業員への給与支払いが適切でない可能性が高いです。
次のような可能性を考え、改善していきましょう。
- 社員かアルバイトの給与水準がほかに対して低い
- 人手が足りておらず、人員不足に陥っている
- 賞与が業績に対して十分でない
人件費率・労働分配率が低い状態の改善方法は人件費を増やすこと
人件費が低い状態が好ましいとは必ずしも言えません。
人件費が低いと、従業員に十分に支払われていない可能性があるためです。この場合は給与や賞与を増やして、従業員のモチベーションを高めると売上をより上げていくことができるでしょう。
また、従業員に支払っている金額が低いと、離職に繋がる可能性もあります。従業員は、企業にとって重要な資産です。特に成果を出している人材や今後の活躍が見込まれる人材には、高い報酬を支払うよう努力することが大切です。
人件費率・労働分配率が高い状態の改善方法:5つ
人件費率・労働分配率を低くするための考え方
人件費率と労働分配率を改善するには、売上を上げるか人件費を下げるかの2つの方法があります。
売上向上のための施策は非常に重要で、単価を上げる方法が考えられます。一方で、売上を上げるためには、時間がかかるのも事実です。
人件費率を下げる場合には、デメリットに注意する必要があります。特に人件費を下げて従業員のモチベーションが落ちてしまわないよう、気を付けるのが大切です。
営業に直結する従業員のコストを下げた結果、モチベーションが落ちて売上が下がったり離職が進んでしまったりすると本末転倒です。
まずは売上を上げることと事業に直結しない、事務方のコストを削減していくと良いでしょう。
改善方法1:商品等の売上単価を上げる方法を検討する
単価を上げると、利益率を高めることができます。単価を上げるためには、商品やサービスの価値を見直し魅力的なものにすることが重要です。
競合と比べて自社の商品やサービスの何が優れているかを分析し、より強みをいかすよう工夫しましょう。
また、卸売り先や取引先にも事前に値上げをすることを説明し、納得してもらう交渉が必要です。
値上げの内容を伝えず値上げのみを実施すると、客離れが起こるリスクがあります。単価を上げる際には、売るものに付加価値を持たせて納得感のある値上げを検討しましょう。
改善方法2:商品等の原材料の売上原価を見直す
売上原価を下げる努力も重要です。売上原価を下げる方法として、原料の見直しが有効です。
原料の中でも特に大きな割合を占めるものについて、複数の仕入先から見積もりをもらい企業間で比較をすると良いでしょう。
また、製造工程を見直すことでコストダウンが図れる可能性もあります。工場のラインや製造プロセスを見直すことで、製造にかかる人件費やロスを削減できるでしょう。
適切な売上原価はその時の業界の水準や原料の値段等によって異なるため、適宜見直しを図ることが重要です。
改善方法3:経理・総務部門を中心に業務効率化によるコスト削減を図る
コストの削減では、売上には直結しない部分から見直していくのがおすすめです。
売上に直結する部門で急速な削減を実施すると 、売上自体が落ちる可能性があります。経理・総務といった売上には直結しない部分から見直していくと良いでしょう。
経理や総務部門でコストカットを行うときは、質を落とさずに効率化を図ることが重要です。
業務効率化では、プロセスを見直します。現在の業務一覧を書き出し、時間のかかっているものや無駄に思われるものを洗い出します。
また、システム導入やペーパーレス化を進め、人的作業の範囲を減らしていくのも良いでしょう。
改善方法4:人員配置の見直しをする
人材配置を見直すのもひとつの手です。
経理や総務部門で効率化を進め少人数で回せるようになった場合は、営業やマーケティングなど表に立つ部署に人員を移すこともできます。また、製造プロセスを見直し少人数で製造ができるようになった場合も同様です。
請求書や納品書の事務の効率化が進むことで、営業のアシスタントの人数を削減できる可能性もあります。
改善方法5:人件費の見直しに着手する
上述のような見直しを行ってもなおコストが削減できない場合は、人件費の見直しに着手します。
給与水準や賞与水準を下げる場合は、社員の強い反対が想定されます。
給与を下げる理由や今後の展望を説明し、納得感を持ってもらうことが重要です。納得感のない人件費の見直しは、離職やモチベーションの低下に繋がりかねません。
人件費を見直す際には一律で下げるのか、特定の年代や部門で下げるのかもポイントです。自社の状況に応じて適切な方法を検討してください。
まとめ
人件費は企業のコストの中でも大きな割合を占めるため、分析や改善を常に行うことが重要です。
ただし、人件費は従業員の生活に繋がる非常にセンシティブで重要な部分ですので、削減を検討する際には注意が必要です。人件費を常に正しく把握し、適切な水準に設定できるよう心がけましょう。